2025年2月19日
2025年1月、当クリニックのホームページを公開いたしました。公開にあたり、定期的に医療コラム(ブログ?)を執筆していきたいと思っています。
第1回のテーマ―は、当方の専門領域である消化器内科から’消化管出血’についてのお話です。
消化管出血とは、口腔から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と食べ物の通り道である消化管からの出血です。
症状は、血を吐く、黒色便や血便が出るなど、消化管に漏れ出した血液が口あるいは肛門から出てしまう状態です。
原因の多くは胃や大腸に存在し、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査によって認識できることが多く、潰瘍などの一次的な消化管粘膜の傷からの出血がほとんどですが、胃がんや大腸がん、食道がんなどからの出血のこともあり、症状を認めた場合には内視鏡検査が必要です。
医師は消化管出血症状をみたときに、体外に出た血液の色や、ある血液検査項目から、出血部位を推定し、胃カメラをすべきか大腸カメラをすべきか判断しています。
しかし、消化管出血のなかには、胃カメラや大腸カメラといった通常検査では出血源がわからない病態が存在し、原因不明の消化管出血、英語では’obscure gastrointestinal bleeding ’といい、医師は一般的に’OGIB’と呼んでいます。
消化管出血のうち、OGIBの割合は5%程度とされ、ほとんどが小腸からの出血とされます。しかし、出血源がわからないまま出血を繰り返し、致死率が25%ともいわれています。
OGIBと診断した場合は、一般的にはカプセル内視鏡検査を行い、小腸病変が疑わしい際には、風船が付いた特殊な内視鏡で小腸の精査を行います。
さらに稀ではありますが、出血源が消化管外に存在することもあります。
今回、2025年2月15日に第122回日本消化器病学会近畿支部例会が開催され、当方も勤務医として最後の学会に演題発表を行い、非常に興味深いOGIBの報告を行いました。
’Hemosuccus pancreaticus’と呼ばれる、膵臓内の膵液の通り道である膵管内に出血し、膵液の出口から十二指腸に出血する病態があり、OGIBの原因の一つとされています。
報告した症例は、膵臓の腫瘍内に突出した動脈瘤という血管のコブが破れて、膵臓内の膵管に出血した特殊事例でした。
黒色便がきっかけで受診され、食道~胃~十二指腸からの出血を想定し、胃カメラを行ったのですが、出血源は見つかりませんでした。同時に行ったエコー検査で膵臓に異常を認めたので、膵臓を’超音波内視鏡検査’で精査した結果、腫瘍内に飛び出した4mmの小さな動脈瘤を見つけることができ、当初は思いもよらなかった原因を同定でき、救命することができました。

世界でも膵嚢胞性腫瘍が原因で出血に至った症例は、これまで6例しか報告がなく、日本消化器病学会に論文として報告し、数か月後に掲載されることになりました。
最初から症状と関係ない病態だと決めつけず、一つ一つの病態に丁寧にアプローチすることが重要であると、改めて考えさせられると同時に、膵臓の精査において’超音波内視鏡検査’の重要性も再認識できました。
1回目からマニアックすぎましたね(笑)。今後も医学論文のエビデンスを踏まえつつ、私的見解も交えながら、執筆していければと思います。また、医学的話題にのみこだわらず、日常的な話題にも触れることができたらいいなとも思っています。
次回は、今回の原因を究明するにあたって、非常に有用であった’超音波内視鏡検査’についてお話ししたいと思います。